事業計画におけるコストを設計する場合の重要な考え方とは?

戦略コストの考え方

· 事業計画,コスト構造,INSIGHT

本稿の要点:

売上高は戦略と情熱によって描かれるが、コストは事実と論理から導出できる。費用計画で見落とされがちなのは、変動費に「売上成長の原因となるコスト(戦略コスト)」と「成長の結果として増えるコスト」の2種類が存在することである。戦略コストに一律のコストダウンで臨むことは、中長期の成長を自ら毀損する。本稿では、コストを戦略コスト・変動費・固定費に分類し、戦略コストを方程式として定式化する費用計画の設計手順を解説する。

トップラインは情熱と戦略、ボトムラインは論理と事実

売上高(トップライン)の成長は、経営チームが描く戦略と、それを実現しようとする情熱に依存する。

では利益はどうか?売上高から様々なコストを差し引いた上で算出されるものであるが、このコストというのは、実は売上高の従属変数と言える。売上をどう伸ばすかを考えると、その伸ばし方には施策・行動が紐づくことに気付く。この施策・行動には必ず「コスト」が伴う。施策から論理的に考えて、どんなコストが発生するかを導く。そして、そのコストがいくらかかるかは自分たちで決められるわけではなく、サービス主体が決めている価格に依存する。この価格がいくらか、という事実が必要となる。どのようなコストがどれだけ発生するかは、最終的には事実と論理から導き出せる。ここから「コストは方程式にできる」という本稿の主題が生まれる。


変動費は2種類ある──「戦略コスト」という見極め

管理会計の教科書では、コストを変動費と固定費に大別する。変動費は売上高(厳密には生産数・販売数)に連動して増減し、固定費は売上高の増減にかかわらず一定発生する。ここまでは広く知られた整理である。

だが、実務で事業成長を左右するのは、その先の見極めである。

変動費と呼ばれるものの中には、売上との因果の向きが正反対の2種類が混在している。売上成長を牽引するコストか、売上成長の結果増えるコストか、という見方である。

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前者を「戦略コスト」と呼んでいる(この呼称は石野雄一氏の定義に依拠している)。整理すると、コストは戦略コスト・変動費(成長の結果)・固定費の3つに分類され、それぞれ取るべきスタンスが異なる。

成長の結果として増える変動費と固定費に対しては、いかに減らすかというコストダウンのスタンスで臨んでよい。だが戦略コストに対する問いは「いかに減らすか」ではなく「いかに効果を上げるか」であり、投資対効果(ROI)の検証というスタンスで臨むべきものである。

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戦略コストを「方程式」にする

戦略コストへの投資対効果を検証可能にする手段が、方程式化である。構造はシンプルで、目標となる結果を、自社の裁量でコントロールできる変数と、仮説検証によって定まっていく定数とに分解する。

  • 集客投資:新規顧客獲得数 = 集客投資額 ÷ 顧客獲得コスト
  • 営業:新規獲得社数 = 営業人員数 × 一人当たり獲得社数

集客投資額や営業人員数(採用)は、経営の意思で決められる変数である。一方、顧客獲得コストや一人当たり獲得社数は、当初は仮説として置き、実行と検証を重ねる中で「当社の事業ではおおよそこの水準」という定数へと収束していく。この定数化のプロセスこそが事業の再現性を生む。事業計画とは、突き詰めれば「自社の勝利の方程式の蓄積」なのである。

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なお、戦略コストの中でも研究開発費 / プロダクト開発費は重要でありながら、方程式化が最も難しい領域であり、いまだ確立した答えを持っていない。さらにAIによって開発費用の考え方が一段と複雑化しているので、別稿で論じたい。

おわりに──コスト構造は経営の解像度を映す鏡


生成AIの進化により、費用計画の数表そのものはAIが即座に出力する時代が来つつある。だが、どのコストが自社の成長のドライバーであり、どのコストが結果なのか──この因果の見極めは、事業への理解そのものであり、AIに委ねる前に経営が答えを持つべき問いである。戦略コストの方程式とその定数は、検証を重ねた企業にしか蓄積されない。

貴社のコスト計画において、戦略コストは「投資」として管理されているだろうか。それとも、削減リストの中に紛れ込んではいないだろうか。

費用計画の設計手順の詳細は、代表著書『事業計画の極意』を参照いただきたい。

実装・研修のご相談は当社までお問い合わせいただければ幸いである。

本稿執筆者:
木村 義弘|株式会社プロフィナンス 代表取締役CEO

2006年、株式会社インスパイア入社。投資部門にてスタートアップへの投資実行、投資後のバリューアップに従事。スタートアップの海外事業立ち上げを経て、2011年デロイトトーマツコンサルティングに入社。デロイトとして、ミャンマー事務所創設に従事し、現地では日系企業・現地政府の産業政策立案支援に携わった。2015年メディア系企業の経営企画部メンバーとして国内外のM&Aを主導し、国内及びシンガポール子会社CFOとしてPMI・管理体制構築を推進した。2018年株式会社プロフィナンスを創業。変化に強く、企業成長を加速させる動的経営プロダクト「Vividir(ビビディア)」を開発、提供。グロービス経営大学院 特任准教授としてファイナンス科目の講義も担当する他、スタートアップアクセラレーションプログラムのメンターとしても活動。著書:「事業計画の極意:仮説と検証で描く成長ストーリー」(中央経済社、2024年12月)東京大学大学院工学系研究科修了