本稿の要点:
収益構造分解理論とは、事業を「売上・コストを生む要素」に分解し、売上・利益を動かす事業変数を特定するための方法論です。財務数値は結果指標であり、直接操作することはできません。操作できるのは、その手前にある変数です。
本稿では、分解の基本手順を解説します。
「市場シェア◯%」、「前年比◯%成長」は計画ではない
売上計画の作り方として、かつて一般的であったのが「市場規模×市場シェア」、「前年売上高×成長率」である。高度成長期のように市場全体が右肩上がりであれば、この方法にも一定の合理性があった。だが、不確実性が高く変化の激しい現在の事業環境において、過去の傾向を単に引き伸ばした数字は計画としての機能を持たない。
「当社は市場シェア◯%を獲得する」「成長率◯%を実現する」──このような事業計画に対して、「ではそのシェア/成長率をどのように達成するのですか?」と質問を行った場合、明確に回答が返ってくる確率は現状、0%である。市場シェア・成長率を土台に考える事業計画が全く使えないわけではない。ただ、それは計画ではない。目標である。シェアや成長率というのは、目標設定であって、計画ではない。この目標をどう達成するか、その行動・施策に落とし、投入コストと売上・財務数値に再構築して初めて、計画と呼べるものになる。
簡単なイメージで考えると理解が深まるであろう。
次の2社の計画説明を見比べてほしい。
- A社:「売上高を前年比130%で伸ばす計画である」
- B社:「売上高を前年比130%で伸ばす計画である。顧客継続率が維持できており利用満足度も高いため、顧客単価を20%引き上げる施策を講じる。あわせて営業プロセスの改善に目処がたったため、受注率を15%から20%へ改善する見込みで、さらに最適な集客手法の組み合わせによって、見込み客獲得数を40%増加させる」
投資家として、あるいは決裁者として、実現可能性を吟味できるのはどちらであろうか。おそらく大半の方がB社と答えるであろう。
収益構造を分解して計画を設計することの効用は、次の3点に集約される。
第一に、売上成長に向けたドライバーを明確にできること。
第二に、実行後の検証が可能になること。
第三に、ある要素が想定を下回った際に、他の要素での挽回策を検討できること。
分解の第一原則──「個数は分解し、単価は分類する」
売上高は原則として「単価×個数」に分解できる。では、次にどちらを分解すべきか。答えは個数である。
100円のチョコレートと3,000円のチョコレートを想起してほしい。両者は購入する顧客が異なり、したがって販売チャネル、広告の打ち方、認知のさせ方──すなわち「売り方」がすべて異なる。高額商材であれば、さらに営業・商談プロセスが加わる。収益構造分解の目的が「施策につなげられるように分解すること」である以上、売り方に直結する個数側を分解していくのが定石となる。一方、単価は分解するのではなく、価格帯──その先にある顧客層──ごとに分類する。この「個数は分解し、単価は分類する」が、収益構造分解の第一原則である。
収益構造分解理論の骨格
世に流通する解説の多くは「SaaSならこの型」「ECならこの型」という例示にとどまり、自社のビジネスモデルへの応用が利かない。当社ではこれを「収益構造分解理論」として体系を整理した。
最終的に5ステップで収益構造・KPIツリーを段階的に設計・構築できることを目標に、基本形と基本作法の定義をしている。

骨格は次の3層である。
(1)3つの基本形
収益構造の分解パターンは、突き詰めれば3つに集約される。
- 掛け算型:異なる要素の乗算。「売上高=単価×個数」が典型である
- 合計型:複数要素の合算。「見込み客数=チャネルA+チャネルB+チャネルC」等
- 遷移率型:母数×状態変化率。「アクティブユーザー数=総ユーザー数×アクティブ率」等
注意すべきは、掛け算型と遷移率型の区別である。演算としてはどちらも乗算だが、掛け算型は「円/個×個/月=円/月」のように単位が変換されるのに対し、遷移率型は母数のうちどれだけが想定する状態・行動に遷移するかを表すため、単位が変わらない。前提とするロジックが異なる以上、別の型として扱う必要がある。

(2)2つの基本作法
基本形を組み合わせる際の作法は2つである。第一に、同じ階層に異なる基本形を混在させないこと。たとえば顧客数の算出において、新規顧客数(合計型の要素)と解約率(遷移率型の要素)を同一階層に並べる計算をしばしば見かけるが、「解約数=解約率×既存顧客数」をまず独立に算出し、その上の階層で加減する構造に分けるべきである。第二に、収益構造は四則演算で結合できる要素へ分解すること。NPSのような指標は売上高と四則演算で接続できないため、ツリーの構成要素ではなく、相関を検証すべき先行指標・モニタリング指標として扱う。

(3)分解の5つのステップ
以上を踏まえ、売上高から順に5つの分類を適用していくことで、KPIツリーをゼロから構築できる。

- 収益モデル大分類:販売モデルか、手数料(プラットフォーム)モデルか
- 顧客関係性分類:売り切り型か、継続利用型(サブスクリプション)か、滞留利用型(ゲーム等のアクティブ率×課金率構造)か
- 顧客アプローチ分類:商談プロセスの有無。B2Bであれば商談ステージごとの遷移率で設計する
- 顧客窓口分類:非店舗か店舗か。店舗はさらに面積制約型(座席数×稼働率×回転数)と商圏制約型(通行量×入店率)に分かれる
- 顧客流入経路分類:メディア型・発信型・イベント型の3類型で集客構造を設計する
各ステップには典型パターン──これを「モジュール」と呼んでいる──が存在し、その組み合わせによって、EC、SaaS、店舗ビジネスから製造業、インフラ事業まで、収益構造を一貫した手順で表現できる。5ステップの詳細な展開とビジネスモデル別の適用は、当社代表の著作『事業計画の極意』にて体系的に示した。
実務上の壁は「言語化」にある
もっとも、この体系を必要とするのは、収益構造の分解ができない方々だけではない。むしろ深刻な課題を抱えるのは、自身では自然にできるようになった経営者・事業責任者である。
事業が成長し、現場への権限委譲が必要になった局面で、経営者はメンバーに「収益構造で考えよう」「KPIツリーを設計しよう」と委任する。だが、出てきたものを見ると何かが違う──このようなケースが頻発する。
試行錯誤の末に暗黙知として獲得した思考プロセスほど、他者に伝えることは難しい。伝えるためには、思考の構造化・可視化・言語化が必要であり、それこそが本理論の役割である。分解の方法論が組織の「共通言語」となって初めて、経営者は分解作業から解放され、本来の仕事に集中できる。経営者・事業責任者の本来の仕事とは、ツリーの中で「何がKPIなのか」を見極め、資源を集中させることである。
おわりに──AIが計画を書く時代にこそ問われる構造
生成AIの進化により、事業計画のドラフト自体はAIが数分で出力する時代が到来しつつある。だが、AIが出力した数字の妥当性を検証し、実績との差異から次の打ち手を導くためには、売上高が四則演算で施策まで接続された構造──すなわち本稿で述べた収益構造・KPIツリー──が土台として存在しなければならない。構造なき計画は、人が作ろうがAIが作ろうが、検証不能な「祈り」にとどまるのだ。
貴社の売上計画は、施策まで分解されているだろうか。それとも、成長率という名の祈りにとどまっているだろうか。
本稿の方法論の詳細は、前述の『事業計画の極意』を参照いただきたい。
実装や研修のご相談は当社までお問い合わせいただければ幸いである。
本稿執筆者:
木村 義弘|株式会社プロフィナンス 代表取締役CEO
2006年、株式会社インスパイア入社。投資部門にてスタートアップへの投資実行、投資後のバリューアップに従事。スタートアップの海外事業立ち上げを経て、2011年デロイトトーマツコンサルティングに入社。デロイトとして、ミャンマー事務所創設に従事し、現地では日系企業・現地政府の産業政策立案支援に携わった。2015年メディア系企業の経営企画部メンバーとして国内外のM&Aを主導し、国内及びシンガポール子会社CFOとしてPMI・管理体制構築を推進した。2018年株式会社プロフィナンスを創業。変化に強く、企業成長を加速させる動的経営プロダクト「Vividir(ビビディア)」を開発、提供。
グロービス経営大学院 特任准教授としてファイナンス科目の講義も担当する他、スタートアップアクセラレーションプログラムのメンターとしても活動。
著書:「事業計画の極意:仮説と検証で描く成長ストーリー」(中央経済社、2024年12月)
東京大学大学院工学系研究科修了。
