事業計画は、なぜ「計画通りにいかない」のに必要なのか?

4つの役割と、「事業計画はいらない」論の4類型

· INSIGHT,事業計画

本稿の要点:

「事業計画は計画通りにいったためしがない」──この実感はおおむね正しい。だが、それは事業計画が不要である理由にはならない。事業計画にはアイデア整理・コミュニケーション・実行支援・検証という4つの役割があり、このうち検証ツールとしての役割は、計画が外れたときに初めて作動するからである。新規事業とは知らないことの集積であり、計画とはその「知らないこと」を仮説として書き出す行為にほかならない。本稿では、「事業計画はいらない」という主張を4つに分類したうえで、事業計画の役割と、よい事業計画の条件を整理する。

「事業計画はいらない」という声を、4つに分けてみる

事業計画をめぐる議論は、しばしば必要・不要の二項対立で語られる。だが「いらない」と言う人々の意図を聞いていくと、実は同じことを言っているわけではない。われわれが事業計画の策定支援と教育に携わるなかで整理した限り、この主張は次の4類型に分かれる。

  • 程度の問題:「そこまで詳細に作り込む必要はない」。世に言う事業計画の項目をすべて埋めるのは相当な労力であり、特に創業初期はまず動くべきだという趣旨である
  • 優先順位の問題:「無駄なペーパーワークをする暇があればプロダクトを作りなさい」。事業推進が目的であり、計画作成は手段にすぎないという警鐘である
  • 言い換えの主張:「必要なのは計画ではなく事業"仮説"だ」。計画という語が「達成しなければならないもの」を連想させるため、本質を別の言葉に置き換えている
  • 自分は作らなかった:「自分は事業計画なしで成功した。だから不要だ」

前の3つは、いずれも事業計画そのものの否定ではない。作り込みの程度、着手の優先順位、呼び名の問題であり、当社もこの3つには基本的に同意する。特に2つ目の「手段と目的の混同」への警鐘は重要で、完成度を上げること自体が楽しくなってしまう現象は、実際によく起きる。

問題は4つ目である。これは典型的な生存者バイアスであり、成功した一例から「不要」を一般化している。成功者の言葉には、その人固有の前提条件──潤沢な自己資金、資金を持つコミュニティへの所属、既存事業からの余力──が省略されていることが多い。

つまり、事業計画に対する反対論のうち、正面から成立しているものはほとんど残らない。残るのは「どの程度、いつ作るか」という運用の問題である。

事業計画には4つの役割がある

では、事業計画は何のためにあるのか。当社では、事業計画には4つの顔があると説明している。


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①アイデア整理ツール:事業計画の項目に沿って考えを書き出すことで、検討事項の抜け漏れを防げる。それ以上に重要なのは、この過程で「わからないこと」がわかることである。調べれば済むものと、やってみなければわからないものが分離され、後者について現時点の結論──すなわち仮説──を置くことになる。

②コミュニケーションツール:事業の実行にはチームの参画が要り、資金が足りなければ外部から調達が要る。技術やチャネルが足りなければパートナーが要る。ここで整理した計画が説明の道具になる。ジェフ・ベゾスが紙ナプキンにビジネスモデルを描いてみせた逸話は有名だが、残念ながら我々はベゾスではないし、聞き手もそのときの聞き手ではない。相手の資金と時間を投じてもらう以上、計画の共有は相手への誠意であるとも言える。

③実行支援ツール:新しい事業に取り組むとは、暗闇のなかで道を作りながら全力疾走するようなものである。どの方向に走るのか、途中で振り返るための明かりをどこに置くのか。先に決めておかなければ、走り出した直後にパニックに陥る。そのとき自ら作成した事業計画が拠り所になる。

④検証ツール:そして、これが最も重要な役割である。実行すれば、仮説として置いた事柄について「実際はこうだった」が判明する。事業計画を通じて仮説を置いていなければ、そもそも検証のしようがない。なんとなくやってなんとなく儲かったとしても、そこからは何も蓄積されない。事業に求められるのは再現性であり、再現性は仮説検証の履歴からしか生まれない。

この4つのうち、①〜③は計画が当たることを前提にしていない。そして④に至っては、計画と実績がズレたときに初めて働く。ここが「計画通りにいかないから不要」という論法が成立しない理由である。

なぜ、新規事業の計画は「達成できない」のか

本稿執筆者がベンチャーキャピタルに在籍していた当時、先輩キャピタリストたちは口を揃えて「スタートアップが出してくる事業計画は達成した試しがない」と言っていた。これはなぜ起きるのか。

答えは、新規事業とは知らないことの集積である、という一点に尽きる。

既存事業の計画であれば、構成する変数の大半は過去の実績によって検証済みである。外部環境の不確実性は残るが、未曾有の災害や疫病でもない限り、ブレは数%の範囲に収まる。一方、新規事業には実績がない。収益構造を分解して変数を並べても、その大半が未検証の仮説であり、さらに言えばその収益構造の理解が正しいのかどうかすら仮説である。仮説の占める割合が高いほど計画はブレる。至極当然の帰結である。

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したがって、事業計画をつくるという行為は、事業における自らの無知を自覚する行為にほかならない。そして実行を通じて、検証し、その無知を「知」に変えていく。新規事業に取り組むとは、事業上の無知を知に変えていくプロセスである

なお、この見方は当サイトの仮説思考稿で述べた考え方と同じ構造をしている。仮説とは構造の空欄に置かれた暫定値であり、空欄は構造を先に描いて初めて特定できる。事業計画とは、まさに空欄だらけの構造を先に描いておく装置である。空欄がなければ、実績が出ても何を学んだのかがわからない。

「計画通りにいかない」は、失敗ではなく作動である

以上を踏まえると、計画と実績の乖離に対する構えが変わる。乖離とは、検証ツールが作動して仮説が反証された状態であり、そこで得られるのは失点ではなく情報である。

したがって、事業計画に必要な要素として当社が強調しているのが可変性である。事業が進めば解像度が上がり、外部環境が変われば前提が変わる。計画は変えていくものである

ここで注意したいのは、「当初計画の達成」を信仰のように掲げる姿勢の危うさである。当初計画を変更なく達成できると考えることには、2つの危険がある。

  • 未来を完全に見通せると考えている。とりわけ予期しえない外部環境の変化までは読めない
  • 確実に達成できる計画しか立てていない。すなわち、成長を織り込んでいない

厄介なのは後者である。「年率3%成長」といった差し障りのない目標を掲げれば計画は達成できるが、それは成長を放棄したことと引き換えである。しかもそうした計画に限って、その3%をどう実現するかの解像度は低い。

ただし、可変性は当初計画の未達を無条件に許容するという意味ではない。目標に至るアプローチを検証しながら見直し続けることであり、どうしても越えられない制約が現れたときには、ステークホルダーと協議して計画そのものを組み替えることである。

おわりに──条件つきの結論

決算書と異なり、事業計画の作成は法律で義務づけられているわけではない。その意味では、あくまで「作った方がよいもの」にとどまる。そして事業計画に関連するサービスをコアにする当社としても、「世の中に存在するあまねく企業は事業計画を創るべき」とは考えていない。
当社としては次のようなスタンスをとって、事業計画の必要性について述べている。

あなたがその事業の非連続な成長を本当に目指したいなら、事業計画は必要である。

成長を目指すなら目標が要り、目標に至るために必要な資源と協力者、そして内在するリスクを認識する必要がある。それらを定性・定量の両面で可視化する手段として、事業計画に勝るものを当社は知らない。

生成AIの登場で、計画書の体裁を整える作業自体は劇的に速くなった。だが、どの変数がまだ仮説なのかを見極め、外れたときに何を学ぶかを決める仕事は残る。むしろ計画を速く作れるようになったぶん、「その計画は何を検証するためのものか」という問いの重みは増している。

貴社の事業計画は、意思決定に使われているだろうか。それとも、提出のために作られ、提出したあと開かれていないだろうか。

事業計画の具体的な作り方は、当サイトの収益構造分解稿・コスト設計稿・市場規模推算稿、および代表著書『事業計画の極意』を参照いただきたい。なお、グロース市場で開示が求められる「事業計画及び成長可能性に関する事項」については、稿を改めて論じたい。

策定支援・研修のご相談は当社までお問い合わせいただければ幸いである。

本稿執筆者:木村 義弘|株式会社プロフィナンス 代表取締役CEO

2006年、株式会社インスパイア入社。投資部門にてスタートアップへの投資実行、投資後のバリューアップに従事。スタートアップの海外事業立ち上げを経て、2011年デロイトトーマツコンサルティングに入社。デロイトとして、ミャンマー事務所創設に従事し、現地では日系企業・現地政府の産業政策立案支援に携わった。2015年メディア系企業の経営企画部メンバーとして国内外のM&Aを主導し、国内及びシンガポール子会社CFOとしてPMI・管理体制構築を推進した。2018年株式会社プロフィナンスを創業。変化に強く、企業成長を加速させる動的経営プロダクト「Vividir(ビビディア)」を開発、提供。グロービス経営大学院 特任准教授としてファイナンス科目の講義も担当する他、スタートアップアクセラレーションプログラムのメンターとしても活動。
著書:「事業計画の極意:仮説と検証で描く成長ストーリー」(中央経済社、2024年12月)
東京大学大学院工学系研究科修了